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新潟地方裁判所 昭和39年(ワ)266号 判決

主文

原告伊藤良一(昭和四一年(ワ)二号反訴被告)、同石山恵美、同伊藤功(同年(ワ)二二三号反訴被告)、同伊藤孝、同松岡清子(同年(ワ)二号反訴被告)の本訴請求を棄却する。

原告伊藤良一(昭和四一年(ワ)二号反訴被告)、同伊藤功(同年(ワ)二二三号反訴被告)、同松岡清子(同年(ワ)二号反訴被告)は、被告(同年(ワ)二号、二二三号反訴原告)に対し、別紙目録第二記載の建物の明渡をせよ。

訴訟費用は、本訴反訴(同年(ワ)二号、二二三号)を通じ、原告ら(前一、二項記載のもの)の連帯負担とする。

事実

第一、本訴請求

原告伊藤良一(昭和四一年(ワ)二号反訴被告)、同石山恵美、同伊藤功(同年(ワ)二二三号反訴被告)、同伊藤孝、同松岡清子(同年(ワ)二号反訴被告)、(以下単に原告らという)訴訟代理人は、

「被告(同年(ワ)二号、二二三号反訴原告以下単に被告という)は、原告らに対し、別紙目録第一第二記載の不動産につき、新潟地方法務局昭和三九年三月三〇日受付第七、九六七号をもつてなされた所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は被告の負担とする」

との判決を求める旨申立て、その請求の原因として、

一、別紙目録第一、第二記載の不動産は、もと訴外伊藤健治郎の所有であつたところ、昭和三二年五月五日原告らが同訴外人から贈与を受けて、それぞれ五分の一ずつの共有持分を取得したものである。

二、昭和三五年三月一〇日、訴外山田勇は、訴外三浦キノから金銭消費貸借契約に基づき、左記金員を借用した。

債権額  金三五万円

弁済期  昭和三五年四月九日

利息  元金一〇〇円につき日歩金四銭九厘

遅延損害金  金一〇〇円につき日歩金九銭八厘

三、同年同月同日原告五名は山田勇の三浦キノに対する前記債務につき各々連帯保証人となり、同時に右債務担保のため原告らの共有にかゝる前記不動産につき抵当権設定契約を締結したとして、新潟地方法務局昭和三五年三月一二日受付第三、九一七号をもつて抵当権設定登記がなされた。

四、その後、三浦キノは、昭和三六年八月一六日訴外野瀬亥八に対し、右債権抵当権を譲渡したとして、同年八月二四日同法務局受付第一四、三二二号をもつて、これが抵当権移転の付記登記を経由し、同人は同三八年一月二五日前記不動産につき抵当権実行による競売の申立をなした。

五、そして昭和三八年七月二二日新潟地方裁判所の競落許可決定により、被告のため、右物件につき同法務局昭和三九年三月三〇日受付第七、九六七号をもつて所有権移転登記がなされた。

六、しかし、前記不動産は共有であるから、これにつき抵当権を設定するには、共有者全員の同意を要するものであるが、原告伊藤良一は前記抵当権設定につき同意を与えた事実はなく、原告松岡清子がなんら権限なくして原告良一の署名を偽造し、印鑑を盗用してなしたものであるから、抵当権設定契約は無効である。

また、原告松岡清子が前記連帯保証債務を負担するにあたり、当時未成年者であつた原告伊藤(現在姓石山)恵美、同伊藤功、同伊藤孝の親権者として右三名を代理し、同一債務につき連帯保証債務を負担し、前記共有不動産につき抵当権を設定した行為は、民法八二六条の利益相反行為に該当し、その子を代理してなした行為は無権代理行為として無効である。

七、以上のように前記不動産についてなされた抵当権設定契約は無効であるから、無効な抵当権に基づく前記競売手続も無効であつて、被告は前記不動産の競落人となつても所有権を取得し得ない。

よつて原告らは被告に対し、前記不動産について新潟地方法務局昭和三九年三月三〇日受付第七、九六七号をもつてなされた所有権移転登記の抹消登記手続を求めるため本訴請求におよんだと述べ、被告の抗弁事実を否認すると述べた。

被告訴訟代理人は「原告らの本訴請求を棄却する。訴訟費用は原告らの連帯負担とする」との判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因に対し、第一項ないし第五項の事実は認めるが、その余の事実は否認する。

被告が右不動産を競落し所有権を取得した経緯は、原告主張の請求原因第二項ないし第五項のとおりである。

すなわち、昭和三五年三月一〇日訴外山田勇が訴外三浦キノから金三五万円を借受けるにあたり、その債務を担保するため、原告松岡清子は、共有者本人として、また共有者原告伊藤良一の代理人として、また共有者であり未成年者であつた原告石山恵美、同伊藤功、同伊藤孝の親権者として連帯保証契約を締結すると同時に前記不動産につき抵当権設定契約を締結し、これが登記手続を経由したものである。

仮に、原告松岡清子が、原告伊藤良一から右代理権を付与されていなかつたとしても、抗弁として、原告伊藤良一は原告松岡清子に対し自己の印鑑を渡し、前記不動産についての管理処分等一切の権限を与えていたので債権抵当権者三浦キノは原告松岡清子に原告伊藤良一を代理する権限があつたと信ずるについて正当な理由がある。

また、原告松岡清子はその親権に服する子の財産について管理権を有し、親権者が子を代理し、自らも連帯保証人となつて負担した債務の担保として子と共有する不動産に抵当権を設定するのは利益相反行為ではない。

従つて右債権抵当権を昭和三六年八月一四日譲受けた訴外野瀬亥八がその旨の登記を経由し、同三八年一月二五日抵当権実行による競売申立をなしたのは正当であり、競売手続が進行して、同年七月二二日新潟地方裁判所で被告に競落許可決定があつて、被告が同三九年三月二七日競落代金を納入して本件不動産の所有権を取得したものである。

よつて原告の主張は理由がないと述べた。

第二、反訴請求

次に被告訴訟代理人は反訴請求として、主文第二項同旨および反訴費用は原告伊藤良一、同伊藤功、同松岡清子の負担とするとの判決を求める旨申立て、その請求の原因として、

一、別紙目録第二記載の建物はもと原告ら五名の共同所有であつたところ、本訴答弁のとおり抵当権が実行され(新潟地方裁判所昭和三八年(ケ)第七号不動産競売事件)、被告は同裁判所より昭和三八年七月二二日競落許可決定を受け、同三九年三月二七日競落代金を完納して、右建物につき所有権を取得し、同年同月三〇日その旨の登記手続を経由した。

二、しかるに、原告伊藤良一、同伊藤功、同松岡清子は何ら法律上の権限なく前記建物を占有しているので、被告は所有権に基づき、同原告らに対し右家屋の明渡を求めるため反訴請求におよんだと、述べ

原告主張事実を否認すると述べた。

同原告ら訴訟代理人は、反訴請求に対し「被告の反訴請求を棄却する」との判決を求め、答弁として

一、被告の反訴請求原因第一項の事実中、前記建物につき被告主張の抵当権が実行され、被告が競落許可決定を受け、その旨の登記手続を経由していることは認めるが、その余の事実は否認する。

二、同第二項の事実中、本件家屋を同原告らが占有していることは認めるが、その余の事実は否認する。

三、原告らは本訴請求原因第六項に主張したとおり、原告松岡清子が原告伊藤良一を代理する権限なく、署名と印鑑を冒用して本件共有不動産に抵当権を設定したものであり、原告恵美、同功、同孝の三名分においては、それが未成年者たる子の利益に相反する行為であるにかゝわらず、特別代理人を選任することなくしてなされたものであるから、その子を代理してなした行為は無権代理行為として無効であり、原告松岡清子自らの分については、他の共有者の同意なくして担保権を設定したもので無効のものであるから、該抵当権実行による競売手続は無効で、被告が本件不動産につき競落人となつたとしても所有権を取得し得ないものであるから被告の反訴請求に応じ得ないと述べた。

証拠(省略)

別紙

目録

第一、新潟市長者町一番四

一、宅地  三一坪二合四勺(一〇三・二七平方メール)

第二、同所同番地四

木造瓦葺平家建の南側

家屋番号 同町四一番四

一、木造瓦葺平家建居宅

建坪一八坪六合一勺(六一・五二平方メートル)

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